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【タイ】セクシー演歌が定着=肌の露出が多すぎると批判
配信日時:2014年7月5日 13時03分 [ ID:673]

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かつての古き良き世代を素直に踏襲する若い世代もいる。7月末に来日予定のイム・スティダーはその代表格と言って良い(撮影:そむちゃい吉田)。

 2014年7月4日、タイメディアによると、ここ数年、タイの歌謡界では肌の露出とセクシーさを売り物にする歌手が増えているという。ヒップホップグループ3.2.1やアイドル歌手ギプシーとのコラボで業界を席巻したバイトゥーイを筆頭に、かつては演歌とまで言われたタイの歌謡曲に何が起きているのだろうか。

 タイ独特の音楽ジャンルに「ルークトゥン」がある。筆者はかねてより歌謡曲と翻訳してきたが、日本のほとんどのメディアは未だに演歌と訳している。歌謡曲としたのには、それなりの理由があるのだが、後述する内容から、もはや演歌とは呼べないことをお気づきになるだろうから、ここではその理由は割愛させていただく。

 アールサヤーム社に所属するバイトゥーイは、かつて筆者がインタビューした時、タイのアイデンティティーでもあるルークトゥンに興味を持たない若い人が多いと嘆いた。自分自身と同じ世代にもっとルークトゥンに興味を持ってほしい。そのためにあえて自らセクシーさを強調する演出を選んだと答えた。

 古くは伝説の歌姫プムプアン・ドゥアンチャンの頃よりほんの数年前まで、ルークトゥンを歌う女性歌手はむやみに肌を露出する衣装は着ることはなかった。バイトゥーイは、その慣習を打ち破り、クラブで踊るコヨーテ嬢になった。その演出が見事に功を奏して、20代の世代が一気にファンとなった。

 この流れは、ルークトゥン界全体にすぐ広がり、元ムエタイ女子チャンピオンのクラテーも、ホットパンツに履き替えて、それまでステージでは晒すことのなかった鍛え上げられた太ももをファンの前に披露した。

 このルークトゥンという歌謡曲には、時々お化けヒットが飛び出す。それは、昨年話題になったバイトゥーイの『Splash out』のような爆発的なものではなく、何年もかけてじっくりと超ロングヒットをする曲のこと。そんな曲が今年前半を席巻した。

 タイ最大手の音楽プロモーター、グラミー社に所属するインリー・シーチュンポンさんのデビューアルバムからこの曲がシングルとしてオンエアーされたのは、2012年後半の頃。わりと早いペースでトップ10入りしたのは、コーチャイターレークバートー(私の番号とあなたの心を交換ね)というタイトルの曲。

 この曲はやはり昨年行なわれたバレーボール・アジア選手権のテーマソングに抜擢されると、タイ代表チームの活躍も追い風となって一気に人気に火がついたのだ。

 そして、お化けヒットという理由はここから。普通ならテーマソングとしての役割を終えるあたりでヒットも終わりとなるのだが、人気は衰えるどころかそのままトップ10圏内に留まり続けたのだ。さらに人気は一向に衰えを知らずに、2013年が終わり、2014年となってもチャートに留まっていたのだ。

 かつてルークトゥンで初めて100万本を超えた曲は2年をかけて、チャート外からじわりじわりと上がって行ったという。しかし、この曲は最初からトップ圏内に足かけ3年留まり続けたわけだ。

 そんなお化けヒットを生み出したインリーも、ステージでは胸の谷間を強調し、へそを出してスカートもかなり短め。そんな彼女がSNSで批判の矢面に立たされている。問題となったのは、彼女がプーケットでのオフタイムにプールで自ら撮影していんスタグラムにアップした水着の写真だ。どうやら、彼女を批判しているのは以前もバイトゥーイに対して、肌の露出が多すぎると批判してきた同じグループらしい。

 時代の変わり目には新しい世代と古い世代との軋轢は避けられない。タイの歌謡界も古く暑苦しいフォーマルドレスを脱ぎ捨て、軽装の若者世代へと移行が確定化したことの表れといった現象だ。

 そして、日本ではAV女優から本物のテレビ女優へと這い上がる道があるように、己の肌とセクシーさを武器にマイナーレーベルからメジャーへと這い上がってくる歌手たちもいる。ルークトゥン歌手の多くは、農村出身だったり、ごく普通の庶民だ。タイの派手なテレビドラマを彩るハーフやお金持ちの子息のやっている俳優とは違う。

 それだけに辛酸を舐め、絶えきれずに道半ばで諦めてしまう人がほとんど。わずかに生き残りスター歌手となるのは、ここタイでも並大抵のことではない。

 こうして見ると、ルークトゥン歌手たちの成り上がりぶりは、演歌歌手にも共通しているのかも知れない。

 しかし、その音楽性はバイトゥーイの曲を一度でも聴いていただければお分かりの通り、演歌どころかすでに歌謡曲という形容も当てはまらない。

 さて、これをこれから何と訳すべきか、筆者は悩んでいる最中である。


【執筆:そむちゃい吉田】

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