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【インド】農村振興に焦点、来年の総選挙対策ーHSBC投信
配信日時:2018年8月1日 10時00分 [ ID:5178]

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 2018年7月31日、HSBC投信は、インド経済レポートを伝えた。

トピックス1:注目されるモンスーンの降雨量

 インドでは例年通り6月にモンスーン入りし、7月の降雨量は南部及び中部で平年を上回った。その結果、国内全体の降雨量は長期平均を2%下回る水準まで改善している(7月27日現在)。

 しかし、北部及び東部の一部の州では降雨不足が続き、「カリフ」(雨季蒔き)穀物の生産への悪影響が懸念される。

 モンスーン期の降雨量は特にインドの農業生産を左右するため、6月から9月まで続くモンスーンによる降雨状況について国中が注目し、メディアは専門家による解説を頻繁に流す。ある調査によると、インドの耕作地全体に占める灌漑面積は半分以下に過ぎないため、灌漑未整備地域では極めて膨大な量の飲料用水が農業部門、特に栽培に大量の水を必要とする米やサトウキビの生産農家によって使われている。

 インドのGDP(国内総生産)に占める農業部門の比率は過去数十年間一貫して低下傾向にある。それでも、労働人口の40~50%が依然として農業部門で就業している。

 モンスーン期に降雨が十分にあれば、豊作が期待できる。豊作は、農家の収入と消費の増加、そして経済成長への好循環を生む。しかしながら、過去数年、農村部では、収入の低迷と債務の増加、それに失業によって、成長が遅れている。

 一方、降雨不足になれば、干ばつのような状況を生み、農村経済と食料価格に影響をもたらす。インドでは国土の大半はもともと干ばつに見舞われやすいため、モンスーンが十分な降雨量をもたらさないまま終われば農業が打撃を受ける。そうした状況は周期的に発生している。気象予報では、2018年のモンスーンによる降雨量は「ほぼ平年並み」となる見通しだ。

 降雨は製造業にとっても重要である。それは、農作物の豊作あるいは不作が製造業の生産活動に直接・間接の影響を及ぼすからだ。

 さらに、大量の水を使用する繊維、乳製品、化学肥料、製糖、飲料などの多くの業界もモンスーン期の降雨に依存する。

 トラクターからバイク、さらに様々な消費財の需要は農家収入と農村経済の動向に左右される。

 アナリストたちは、トラクターとバイクの販売が最近数四半期連続して増えている点について、農村経済の回復の兆しであり、農村部の消費に依存する企業の業績改善の兆候として注目している。同様に、最近数カ月間、農村部向け融資の伸び率に改善がみられる。

トピックス2:来年の総選挙を控え、政府は農村振興に焦点

 インドでは2019年5月までに下院総選挙が行われる。その前哨戦で政府・与党は、様々な州選挙において主要な選挙争点として浮上した農村経済浮揚策と農家救済策に焦点を当てた動きをみせている。

 7月上旬、政府は農家収入を増やすためにカリフ(雨季蒔き)作物の政府買い取り最低保証価格(MSP)を生産費の最低1.5倍に引き上げた。現会計年度(2018年4月-2019年3月)のMSPの前年度比上げ幅は加重平均ベースで14.8%となり、前年度の6.1%を大きく上回った。

 MSPは一種のセーフティネットである。作物の市場価格が急落すれば、政府が農家から作物を買い取る救済策が適用される。MSPは作物別に決められる。MSP制度があるので、農家は生産した作物を市場価格で自由に売却し、市場価格がMSPを下回れば政府に最低保証価格で買い取ってもらえる。MSPは毎年種まき作業が始まる時期に、農業費用価格委員(CACP)の勧告に基づいて決定される。

 MSP引き上げ幅が高ければ、理論的には物価を押し上げ、財政を圧迫する要因となる。しかし、実際の影響は、引き上げ幅ではなく、「実効買い取り」(effective procurement)と呼ばれるメカニズムによって決まる。具体的には、MSPは20種類を超える作物を対象とするが、実効買い取りの適用は、米、小麦、綿花の3種類に事実上限定している。

 今回のMSP引き上げは、「実効買い取り」を考慮に入れないで計算すると、物価に0.2~0.3%、財政収支(対GDP比)に0.05%の影響をもたらすという試算がある。しかしながら、「実効買い取り」を考慮すると、物価は0.7~0.9%上昇し、財政収支は0.2~0.3%悪化することになる。

 MSP引き上げのほかに、インドには化学肥料補助金制度があり、政府は灌漑及び農村部インフラの整備・拡充も公約している。さらに、州政府の中には農村経済の浮揚策の一環として農家に対して債務免除策を導入したところもある。

 これらの農家支援策の多くが農村経済の早期回復につながるとみられている。そこに、モンスーン期に十分な降雨があれば、今年は農村部の持続的改善が確かなものになることが予想される。このように、インドではモンスーン期の降雨状況がしばしば大きなニュースとなる。とりわけ、降雨量に今後を左右される農家や企業、さらには政府は、モンスーン期が終わるまで空模様に一喜一憂し続けることになる。

【編集:PK】

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