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【タイ】海のジプシー・モーケン族 失われつつある海洋民族の文化と伝統
配信日時:2017年4月2日 9時00分 [ ID:4238]

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モーケン族が暮らす、青く澄みきったインド洋アンダマン海に浮かぶスリン島。観光客が行けるのは11月から5月ころの乾季だけ

 2017年4月2日、タイとミャンマーのインド洋沖には、世界的にも珍しい船の上で暮らす民族モーケン族がいる。しかし、タイ領内にいるモーケン族は国籍の取得と引き換えに、ほぼすべての人々が陸へ定住している。何世紀にも渡って培われてきたその伝統と文化は、2004年末に起きたスマトラ島沖大地震をきっかけに風前の灯となっているという。現在もインド洋アンダマン海のスリン島に暮らす人々を見てきた。

民族名の由来

 モーケンとは、「海に沈められた女王の妹」という意味だといい、それが彼ら種族の祖先と言われている。タイ族やビルマ族とは違うポリネシア系に近い顔立ちをしている。モーケン族と同様に海上生活をしていた民族として、モークレーン族とウラクラウォイ族がいる。モークレーン族はタイ領内ではモーケン族よりも南プーケットからクラビー県に居住する。ウラクラウォイ族は、さらに南のサトゥーン県からマレーシア領内にかけて居住している。モーケンとモークレーン言葉は類似性があり、それぞれ会話も通じるが、ウラクラウォイの言葉とは類似性はなく、むしろ周辺地域で使われているマレー系言語のヤーウィー語に近い。祖先や自然を祀るアミニズム信仰を持ち、村には「祖父祖母」と呼ぶ祠(ほこら)があり、年に一度5月に海へ返す祭りが行われる。モーケン族は独自の言葉を使っているが、文字は持っていない。その文化の継承は、代々口伝えで行われてきた。

かつての海上生活

 かつてモーケンの人々は、一年のほとんどをこのカバン船で過ごし、島から島へとインド洋を行き来していた。ガバンと呼ばれる船で海上で暮らし、船上に設えた家の中には生活用具が揃えられている。現在では、太陽パネルを利用して電化製品を使う船もある。近代に入り、タイやミャンマー政府が定住策を始めると共に国境を超えた移動を厳しく制限するようになると、その移動半径も狭くならざる得なくなった。

 モーケンの人は、船の上で出産もした。そして船の上で息を引き取り、亡骸は海へと沈められた。何世紀にも渡って、まさに海で一生を送って来た。彼らは1日のほとんどを魚取りに費やす。沖合では数十メートルも海深く素潜りをする。その潜水能力は、時に10分以上も潜ったままという。潜水しながら、身長の2倍ものモリで、魚を射止めたり、貝やナマコを採取する。しかし、ナマコは彼ら自身では食べない。それは市場などで売り、得た現金で米などを購入するのだ。

失われゆく独自の文化

 2004年12月26日に発生したスマトラ沖大地震による津波では、約12カ国に及ぶ地域で死者・行方不明者は合計で227,898人が犠牲となった。しかし、平均で10mに達する津波が数回襲ったと言われるアンダマン海では、タイ国内だけで6,000人超の犠牲者が出ているにも関わらず、タイ領内にいたモーケンの人々には一人も犠牲者が出ていない。これは文字を持たない彼らに、古くから伝わってきた伝承から海の変化に素早く対応したことによるものだった。そして、当初うまく進んでいなかったタイ国による定住化が、この津波のよって大きく進み、ほとんどの人々が定住を受け入れた。その際には、タイ国籍と共にラマ9世(プミポン国王:当時)の母君より苗字が下賜された。それまで彼らに苗字はなく、名前だけであった。

 現在、タイに住むモーケンの人々は沖合の島々に暮らしてはいるものの、かつてのように船の上だけで過ごすことは無くなり、海岸に設えた高床式の質素な住居で暮らしている。子どもたちは、就学年齢に達すると内陸の学校へ通うため寮生活を送っている。海岸の家をベースに沖合で魚や貝などを採取して市場で売ることが主な収入源となっているが、子供の教育費までは賄いきれていない。また雨季ともなれば漁に出ることもままならないため、内陸でアルバイトをする人も増えている。近年では、モーケン語を話せない若者も増えつつあるほか、泳ぎが苦手な子どもも増える傾向にあるという。

伝統文化を次世代につなぐ試み

 タイでは、こうした事態に彼らの文化を保存しようという動きも始まっており、王室やNGOが主体となって活動が行われている。Sの一つは、観光客誘致によって彼らの収入源を増やそうという試み。パンガー県クラブリーのアンダマンディスカバリー社が行っている取り組みは、単にツアー客を送り込むでは無く、モーケンの人々自身が考えて伝統的な生活を体験させるというもの。実際に伝統的なモリを投げたり、小型船チャバンの立ち漕ぎを体験出来る。まるで動物園の見学のような他のツアーとは違い、直接モーケンの人から話も聞けるとして、欧米からの観光客に人気上昇中だ。モーケン族が暮らす島を訪れることができるのは、乾季(11月から5月くらい)の間だけ。雨季の間は海も荒れるために観光客が訪れることは禁止されている。

 現在の資本主義の流入や国策といった時代の流れには、さすがの海洋民族モーケンの人々も翻弄されている。しかしそれは、彼らだけではない。タイ北部山岳部に暮らすモン族、リス族、カレン族などの少数民族も、現代の利便性あるいは、国籍と引き換えに彼ら自身の伝統として伝えられてきた独特な文化などを失いつつある。独自のアイデンティティーを現代社会の中でどう守っていくか。もはや待った無しの状況になっている。

モーケン族に会いたいという人は、今回の取材にも協力してもらった下記のサイトから現地ツアーを申し込める。

☆アンダマンディスカバリー社:www.andamandiscoveries.com

また、ツナミクラフトが年に2度日本からのツアーを主催している。
モーケン族だけでなく、パンガー県周辺地域の生活体験もできる。


【取材/撮影:そむちゃい吉田】

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